『はじめての経済学(上)』

 伊藤元重教授の『はじめての経済学(上)』を拝読しました。上巻でマクロ経済学ミクロ経済学ゲーム理論を扱っており、下巻では財政、金融、企業、国際金融などを扱っているそうです。伊藤元重教授の著書に触れるのはこれがはじめてですが、マクロ、ミクロ、ゲームの基礎的な内容を事例に当てはめながら解説しています。
 社会人に興味を持ってもらうためか、70〜90年代の日本経済を参考にマクロやミクロの説明をされているのですが、日本経済史の説明に重きを置いているような解説なので、理論的な解説を求めている初学者にはやや不満かもしれません。
 また個人的には、随所に見られる「本書は初歩的な内容を解説するのでこれ以上のことは他に譲る」といった類の記述が、却って文章を読みにくくしているように感じました。

はじめての経済学〈上〉 (日経文庫)

はじめての経済学〈上〉 (日経文庫)

 本書で特に勉強になったと感じたのは、p98の「為替レートと農業の競争力」の箇所でした。ニュース等では、農家の生産力を向上させるべく大規模化、あるいは補助金投入といった議論が進んでいるように見受けられますが、農業の競争力は為替レートが円高に振れたことが大きな要因だと指摘されています。
 つまり、40年前には1ドル=360円だった為替レートが、製造業の躍進等により1ドル=90円前後となったため、農家は単純にみても生産コストを1/4倍にしなければ太刀打ちできないという事実が、農家の困窮の要因だというのです。考えてみれば、当たり前の内容ですが、ニュースを惰性で見ているせいか、あたかも「アメリカの生産性が大規模・機械化などで上がったから、日本の農家が困窮した」と誤解していました。
 初歩的な事実を見落としてはいけないということを教えてくれる一冊でした。機会があれば下巻にも触れたいと思います(といいつつ八田教授のミクロ経済学2も買っていない…)。